
チグニッタスペースで現在開催中の展覧会、ゴトウヨシタカの写真展でのギャラリートーク。写真集「Mission」の出版記念展でもあることから、出版元「233PRESS)」のオーナー、中根さんにもオンラインでトークに参加していただきました。フィルムによる多重露光の風景写真に取り組むゴトウさんの果てしなきチャレンジについて話を伺いました。

ゴトウヨシタカ
京都産業大学経営学部卒。フリーランス写真家。
2018年より写真事務所ジャムアーツを設立。FM802/FM COCOLOによるdigmeout登録アーティスト。2008年にロシアを起源とするLomography(ロモグラフィー)社製のフィルムカメラに出会い、それまで使っていたデジタル一眼レフカメラを封印。
既成概念に捉われず、撮影を楽しむ世界中のロモグラフィーユーザーに触発され多重露光に没頭。CGやSF映画の様な世界を多重露光やクロスプロセス現像といったアナログの手法で作品制作を行う。それらの作品は時に幻想的で時にクレイジーな作品として様々なコンペで評価を受ける。作品発表は国内各地で個展を開催し、また国内外のアートフェアにも出展。
作品は各種広告、書籍の装幀、音楽ジャケット、企業カレンダーなどのアートワークに採用される。そしてフィルムカメラによるワークショップの講師を各種学校などで勤める。またトークイベントのゲスト出演などの活動も国内外で行う。2018年写真集「Inception」(バッファロープレス)、2019年写真集「X-ing」(233PRESS)、2023年「Mission」(233PRESS)出版。
中根大輔
ギャラリー世田谷233オーナー
ノンバンクに11年勤務した後、編集者&Webクリエイターとして独立。現在、世田谷区若林にて発信型のギャラリー・世田谷233を運営しながらフリーランスとしても活動中。渋谷・世田谷を中心にさまざまなプロジェクトにも参画している。日本デザイナー学院講師。

たくさんのご来場、ありがとうございます。本日のギャラリートークは、ゲストとしてギャラリー世田谷233の中根さんをオンラインで迎えてお届けします。中根さん、よろしくお願いします。まずはゴトウさん、自己紹介と、中根さんをご紹介ください。
ゴトウ:カメラマンをしています。ゴトウです。主にロモグラフィーというカメラで作品製作をしています。多重露光という「重ね撮り」という作風をメインとしておりまして、今回作品集を出版しましたのでその展覧会を東京大阪でさせていただいています。
中根さんは三軒茶屋にある「ギャラリー世田谷233」のオーナーで、今回の写真集のプロデュースをしていただきました。昨年10月からクラウドファンディングを中根さんと僕とデザイナーの小宅さんと3人でチームを組んで製作しました。中根さんとは15年ぐらいのお付き合いで、東京に行くたびにお会いして、僕の独立の時も応援していただいたり、東京での活動を全面的に応援していただいている方なので、谷口さんともつなぎたいという思いもあったので今日はオンラインで出演していただいています。
中根です。よろしくお願いします。谷口さんのお話はいつも聞かせていただいています。今日はクラウドファンディングに協力していただいた方もたくさんおられるみたいで、お礼申し上げます。
ゴトウになり代わりまして、ですね(笑)
僕とゴトウさんとの付き合いももう長いですねぇ。UNKNOWN ASIAの第1回からですから2015年?
ゴトウ:谷口さんとの出会いは2015年ですが、それ以前に谷口さんが802でやっておられた「digmeout 」の企画で、ネット上で「毎日オーディション」という、自分の作品を見てもらえるというのがあって、僕も何度か応募してコメントをもらっていました。その後、UNKNOWN ASIAというアートフェア第1回目のための名古屋の説明会で谷口さんにお会いしたのが最初でした。
お会いした頃、ゴトウさんはお勤めされていて、趣味で写真を撮られていたとおもうのですが、そのころからもうロモグラフィーで撮られていた。
ゴトウ:そうです。
どのようなきっかけでロモグラフィーで写真を撮ることになったのですか?

ゴトウ:旅行が好きだったので旅行先で写真を写真を撮っていたんです、その時はデジタルだったんですけど、それを友達や会社の同僚に見せたり、写真集を作ったりしてたんです。結構評判が良かったので、もう少し写真を勉強してみようと思い、通信教育でカメラの勉強をはじめました。一眼レフの露出とかシャッタースピードとかですね。3、4年ぐらい経って、だんだんデジタルカメラで写真を撮ることに飽きてきたというか。今のカメラって性能がいいので極端な話、シャッターを押せば誰でもきれいな写真が撮れますよね。自分が写真を撮ってるのではなくて、カメラに撮らされているような気がしはじめてきたんです。その頃、フィルムカメラに興味が出てきて、最初「ホルガ」という、いわゆる「トイカメラ」という簡単な構造のカメラを使ってみたのですが、本当に思い通りに撮れないし、現像するまで結果がわからない。デジタルと違って新鮮で面白かったんです、その後ロモグラフィーという今のカメラに出会って「LCA+」という機種を使い始めたのですが、手軽で写真の色も面白くて夢中になりました。
その頃、「オリーブ」って雑誌でロモグラフィーが流行って、可愛い女子がおしゃれアイテムとしてみんなロモを持つというブームがあって。みんな空とか、カフェラテとか動物園の写真を撮ってましたね。笑。トイカメラですからズームもないし、シャッターも単純だし、色も思い通りに出ないし、なかなか手強いカメラだと思うのですが、ゴトウさんがこのカメラを使って、風景写真、しかも多重露光に挑戦しようと思ったのはどのような経緯だったのでしょうか。
ゴトウ:初めて多重露光の写真が撮れたのは、実は事故だったんですよ。撮影した後フィルム巻くのを忘れてて、風景が重なって撮れてしまったんです。インドで撮った黄色いタクシーと人物とモスクが重なった写真だったのですが、失敗だけど、なんだか面白いなと思って、当時ロモがやっていた国際コンペにその写真を出したら、なんとグランプリを取ってしまったんです。
あらまあ。笑。どれぐらいの応募があったんですか?
ゴトウ:何万点って聞いてます。ロモグラフィー香港が主催していたんですが、香港のショップで行われる受賞作品展のオープニングに招待されたんです。二つ返事で現地に行って、アジアのいろんな人と交流して、この世界にすっかりはまってしまいました。それまでの人生で1位なんてとったことがなかったんで「一番ってこんな嬉しいんだ」って思って。笑。今からデジタル写真に参入しても後発でテクニックもないし、自分の場所もないと思ってましたが、フィルムカメラでしかも多重露光の風景写真というニッチな場所だったら、名前を残せるかもと思って。
失敗写真のくせにね。笑
ゴトウ:そうですね。笑

でもその多重露光の風景写真を自分のオリジナルとしてカタチにしようとしたことが面白いですね。その技術を獲得するためにどのような努力をされたのですか?
ゴトウ:ほぼ独学です。ロモグラフィーにはweb上で自分の作品をアップロードして自分のページを作れる機能があったので、他の作家の写真見て研究しながら、自分なりにやり方を見つけていきました。
2015年にUNKNOWN ASIAに出展した時には自分なりの方法を見つけ出していました。そこから5年連続でUNKNOWN ASIAに出展しました。写真家の中で、僕はアウトロー的な立場だと思うので、ワインの品評会にどぶろくで参加しているような、毎回そんな感じに思っていました。ですから純粋に写真コンペというよりはノンジャンルのクリエイターが参加するUNKNOWN ASIAというのが僕らしいかなと思っていました。最初に出た時は審査員さんからもスルーされていましたが、3年目に、エントリーした作品をフェアのメインビジュアルに使っていただいたり、スポンサー賞をいただいたりして、少し見えてきたなという感じになってきました
ちょうどその頃、ゴトウさんから「会社を辞めて独立する」という相談を受けたのですが、その時どういう決意でフリーになろうと思われたのですか?
ゴトウ:本の装丁のお仕事をいただいたんです。講談社さんでしたが、ある日突然メールが届いて、最初は詐欺かと思ったのですが、本当の話で。笑。その時、自分の作品で収入を得ることができるんだということがわかって、やっと商業的に認められたので、自分で起業して動いていけば、もっと仕事になっていくのではと思ったので、思い切りました。
フリーの写真家、ゴトウヨシタカとして最初は何からスタートしましたか。
ゴトウ:展示をまず増やしました。心斎橋の「STUDIO DIFFUSE MAKE+」で展示をさせてもらったり、第一弾の写真集を作ったり、自分がまずいろんなところに行けるようにして露出度を上げるようにしました。

中根さんとの出会いはその頃からですか?
ゴトウ:もっと古くて2008年ごろからです。中根さんも当時ロモを使っておられたところから意気投合して、何年か通っているうちに作品を気に入っていただいて、中根さんの企画展にも参加させてもらっていました。東京での活動は中根さんの応援があったので実現できた感じです。
中根さん、ゴトウさんから「会社辞めてフリーになる」って最初聞かれてどうでした?
中根:僕は、そういう相談を普段からよく受けるので、僕も以前サラリーマンやってたこともあり、ゴトウさんのことは積極的に後押ししましたね。私のギャラリーにはロモグラフィーで写真を撮る写真家さんは昔から集まってきていたのですが、海外にまで出かけて行って、しかも違う国をまたいで多重露光の写真を撮るようなことをするのはゴトウさんしかいなかったですね。アイデアとしてもずば抜けていたと思いますね。

そうなんですよね。ゴトウさんの写真ていうのはお金と時間をかけて撮る壮大な試みでもあって、片やアイスランド、片や香港と、本当に手間をかけて多重露光の写真を撮影して、その結果は現像してみないとわからないという非常にハードルの高い作品制作をしておられる。以前の展覧会でゴトウさんは「リスクテイカー」というタイトルを使われていたと思うのですが、まさに「ハイリスク、ローリターン」というか、まさに無謀なものにチャレンジされているとうのが、ゴトウさんの馬鹿なところでもあるし最大の魅力だとも思うのですが、
ゴトウ:「リスクテイカー」って言葉が、僕はすごく好きなんですよね。この言葉、ロモのコンテストで優勝した時、副賞としてカメラをいただいたのですが、そのカメラに「リスクテイカー、ルールブレイカー」ってワードが書いてあったんですよ。それってもう、ロモグラフィーを使っている人のスピリッツでもあるわけです。「教科書通りの撮影などするな」「ファインダーなんて覗かなくていいよ」と。「リスクテイカー」って言葉が、まさしく僕がやっていることなんだろうなって、すごく響いて、多重露光って現像するまで結果がわからないし、海外行って撮影して、帰ってきてから結果がわかるってすごいリスクなんですよ。フィルム一本全部ダメってことも当然あり得るので、でも、それを恐れていたら何もできない。ニッチなことをやっていかないと僕の場合仕事にならないので、そのリスクを逆に楽しんじゃえと。実際のできた写真を前に、そんなリスクも含めたプレゼンテーションができるのも逆に面白いんじゃないか。撮影している時もリスクを考える前にとにかく楽しもうと。
相当大変な工程と伺ってますが。
ゴトウ:一度撮影したフィルムを巻き戻してカメラにセットし直し、上書きをするように2回目を撮影するのですが、撮影の順番を考えないといけないんです。この大きな写真は上が香港、下が台湾なんですが、下の台湾の滝を10番目に撮ったとしたら、上の香港の写真が10番目に来るように道順を考えるわけです。1回目の撮影をする前に全ての撮影ルートを決めています。

ゴトウさんは簡単に「ルートを決める」と言ったけど、そんなに簡単ではないですよね。台湾に行ってフィルム全部滝を撮影するわけではないとしたら、このフィルムのどこに滝を撮影したかを綿密に記録しておかなければならない。
ゴトウ:はい、
でも旅行先なんて、何度も訪れる場所ではないですから、初めて行った場所で撮影に適した場所が偶然現れる可能性はとても少ないじゃないですか。
ゴトウ:Googleマップのストリートビューで検索しまくってロケ場所を決めています。わかりにくいところはインスタのタグで検索したりして、撮影可能な場所かどうかを綿密に検討します。
そこは完全に文明の利器を使いまくってるんですね。
ゴトウ:はい、デジタル使いまくってます。
と、いうことはフィルムですごいアナログなことをやっているけど、左脳的なことはすごくしているわけですよね、撮影の記録とか、ロケハンも事前に想定するとか。
ゴトウ:あと、海外もそう頻繁に行けるものではないので、溜め撮りをするんですね。次回別の国に行くときや国内の写真と組み合わせることも想定して余分に撮るのです。そうなるとカメラが1台では足りなくなるので、同じカメラを5.6台持って行って使い回しているんです。
そうなったらもうどのカメラで何撮ったか混乱するじゃん。
ゴトウ:カメラに番号をつけておいて、iPhoneでリストを作ります。「カメラ1の何枚目には滝」とか。しかもデジカメではないのでファインダーを覗いても撮れる写真が見れるわけではない。なので想像で撮影してますね。
怖いなー(笑)それでも、まあ、台湾や香港はまだいいとして、アイスランドとか、もう地球の最果てじゃないですか。旅費も相当でしょ?
ゴトウ:そうですね、旅費も詰めるところは詰めて。基本的にお昼ご飯はなしですね。全ての時間を撮影に使います。あと、海外に行く時は半年以上前に計画することで飛行機やホテルも安く抑えることができるので、お金も切り詰めるところは切り詰めていく。
海外に行って「うえーい」とかないんや。笑
ゴトウ:はい。笑。僕の投稿に海外ご飯とか全然出てこないです。
この後ろに並んでいる写真の中にそういうストーリーがいっぱい詰まってることがわかると、さらにこの写真の魅力が増してきますね。「リスクテイカー」というより「アホ」ですね。本当に。笑。
今回の作品集「Mission」制の話をしましょう。中根さんと作られたのですよね。中根さん、ゴトウさんとのコラボレーションにどのような魅力を感じておられますか?
中根:今回の作品集の前にも1冊作っているのですが、そのときゴッチンさんが「レコードジャケット」のような写真集を作りたいと言ったのがとても面白くて、それで正方形の作品集をつくりました。今回はゴッチンさんが好きなクリストファーノーランにインスパイアされて作ろうということになったんですね。本当に作りたいように自由に作品集を作らせてもらっているので、毎回とても楽しいです。
ゴッチンさんの写真はロモグラフィーというカメラをつかっていながらこのスケール感というのがすば抜けていると思うんですね。なのでたくさんの人に見てもらいたいという気持ちで作ってますね。クラウドファンディングも大成功して、たくさんの方に作品集を届けることができたので本当に嬉しいですね。

ゴトウさん2018年に写真家として独立されて、5年目。なんとかなってきたな、と思えた瞬間っていつくらいでしたか?
ゴトウ:正直今でも「イエーイ」という感じではないのですが、去年、ナオトインティライミさんのジャケット写真に採用されたんですね。一つ目標が達成したなと思いました。

ロモグラフィーのコンペからはじまり、インスタを通じてジャケットデザインの依頼が届く今まで、ゴトウさんは自分の作品紹介や解説に積極的にSNSを活用されてきましたよね。その効果もあり、大阪の展覧会でも平日の初日からたくさんのファンの方にお越しいただいてますね。
ゴトウ:常に発信する、いろんなところに顔を出すということを心掛けています。岐阜という地方都市では広がりがなく、ネット上で配信してても自分の人となりまでは伝えきれないので、面と向かって作品も解説したいし、僕のこともわかってほしいので、チャンスがあれば全国どこへでも行きたいと思っています。
ここ数年、コロナでなかなか移動もできなかったと思うのですが、今年はどんな感じですか?
ゴトウ:6月に久しぶりに海外に行こうと思っていまして、2週間ぐらいでチェコとオーストリアに撮影に行きます。タイトなスケジュールをまた組んでましておそらくまた昼ごはんは抜きですね。
今回ご来場の皆様にメッセージをお願いします。
僕の写真というのは世紀末感を感じたり、自然界と人工物というものを重ねているものが多いのですが、それはいま人間が考えなきゃいけない問題を提起している意味もあります。あと今回の作品集「MissIon」の最終的なミッションは、敬愛するクリストファーノーラン監督にこの写真集を手渡す、ということですね。僕が発信することで、誰かからクリストファーノーラン本人に伝わることを期待してます。笑。
来場者からの質問:ゴトウさんは来場されたお客さんに写真の撮影方法を全部言っちゃいますよね。作品制作の方法ってシークレットなものだと思うのですが、それはどういう意図でですか?
正直、僕の方法は他の人には真似ができないだろうなと思っていて。技術自体はそれほど難しいものではないのですが、チャレンジ精神がそこまで保てないだろう、と。秘密にしたいとは思わないし、やれるもんならやってみな、と思ってます。笑
会場にお越しの笹貫さんはUNKNOWN ASIAからゴトウさんをよくご存じだし、作品もコレクションされておられます、ゴトウさんの作品の魅力についてお話しいただけますか?
笹貫:旅のお話しがとても興味深かったです。確かにロシアンルーレット的に撮影していないだろうとは思っていましたが、撮影工程含め時間をかけて準備しておきながら、結果的に現像してみないとわからないというスリリングな写真だなと、改めてすごいなあと感じました。 ゴトウさんの写真を二点コレクションしているのですが、私は「崩壊系」と呼んでいて自分の心を奮い立たせてくれる時があるんです。日々の暮らしの中で、ゴトウさんの写真から、いろんな考えや元気をもらっています。
ゴトウ:この写真は「Return to Nature」というタイトルで、都市が土に還っていく様を表現しています。コレクションしていただいて嬉しいです。
笹貫:先ほど環境問題の話がでましたが、私はゴトウさんの写真から、現代美術家のオラファーエリアソンを連想します。彼がアイスランドの風景を定点観測して撮影し、環境問題を提起している写真と通じるイメージがあると思いました。
ゴトウ:ありがとうございます。笹貫さんにそう言っていただいて嬉しいです。

Commentaires