
「Snow Pallet」とは、札幌在住の美術家、澁⾕俊彦が展開しているランドアート。屋外に配置されたオブジェの裏面に塗布された蛍光塗料が、光の反射によって雪面に鮮やかな色彩を表出させるというシンプルで美しいインスタレーションです。13回目となる今年は、札幌パークホテル中庭で初雪から雪解けまでの4ヶ月に渡り展開されました。過去最大となる高さや形状の異なるオブジェ70台が配置された中庭に雪が降り積もり、太陽光と雪の形状が、光や影の変化をもたらし、日々、あるいは一日のなかでも様々な風景を見せてくれます。雪が浅い日にはキタキツネが会場を通り小さな足跡を残すという、まさに自然と寄り添いながら共生する「Snow Pallet」。唯一人工的なアクセントを残す蛍光色が雪面にグラフィカルな美しさを引き出し、見る人に鮮やかな記憶を残してくれます。澁⾕さんの「Snow Pallet」は、年間降雪量が6mに達する札幌ならではの「冬の記憶」。それはまた、年々降雪量が減少する北海道から気候変動、地球温暖化に対する警鐘でもあります。今シーズンの終了にあたり、澁⾕俊彦さんからいただいたレポートとともにご覧ください。
Snow Pallet13 -アントロポセン(人新世)に積もる雪-
北国の地域特性を活かした新しいアートの在り方は、冬の大地との強い結びつきにあると考える。私のランドアートは環境と融合し、自然と相対するのではなく、寄り添うように共生することを目指している。

冬のランドアート「Snow Pallet」は年間降雪量6mにも達する190万都市札幌を中心に、展開されている「冬の記憶」のためのサイトスペシフィックアートである。スノーパレットとは、オブジェ裏面に塗布された蛍光塗料が雪の反射によって雪面に鮮やかな色彩を表出させるインスタレーションである。

高さの異なる幾つものオブジェによってその時々の太陽光と積雪量によって景色を変えていく。設置場所によって異なる降り積もる雪の形状、初雪から雪解けまでの約4か月の変化する景色、1日の時間軸で変化する表出する色彩、また天候によって変化する色彩(曇天、降雪時のほうが彩度の映える太陽光のスペクトルのマジック)。これは、タイムスケープランドアートでもある。

2011年よりこのプロジェクトとはスタートしたが、年々降雪量は減っていく傾向がみられる。また数十年単位で記録された突発的な大雪、または少雪が短周期で頻繁に起きる。これらの現象は、地球温暖化、またそれに伴う気候変動、異常気象の影響であろうことと推測できる。人間の開発行為によって環境破壊が進む地球は、これからどんな方向に向かうのか。

これらの環境破壊は人類史上最大、かつ地球市民全ての人々に関わる大きな課題に対して、如何に環境保全、環境改善の道筋を示していけるのか。新型コロナウイルス感染症に収束の気配が未だ見えない中、急務に見直しが迫られているのが自然環境と人間の新しい関係の構築である。このプロジェクトは、気象データとスノーパレットの景色の記憶を残すことによって、気候変動への警鐘を鳴らすものでもある。

スノーパレットプロジェクトの変遷
Snow Pallet 1 / モエレ沼公園(2011年)
Snow Pallet 2 / 札幌芸術の森美術館 中庭インスタレーション(2011~2012)
Snow Pallet 3 / 関口雄揮記念美術館 前庭(2012~2013)
Snow Pallet 4 / ノース・スノーランド・イン千歳 (2013)
Snow Pallet 5 / 小樽運河プラザ、小樽貴賓館 (2013~2014)
Snow Pallet 6 / 防風林アートプロジェクト、帯広(2014)
Snow Pallet 7 / 札幌宮の森美術館 中庭テラス (2014~2015)
Snow Pallet 8 / 思考するアート展 コトバノカタチ、道立帯広美術館 (2015~2016)
Snow Pallet 9 / 六花亭札幌本店 南面前庭(2016~2017)
Snow Pallet 10 / ホテル札幌ガーデンパレス 4F中庭(2017~2018)
Snow Pallet 11 / 六花亭札幌本店 南面前庭(2018~2019)
Snow Pallet 12 / 札幌デザイナー学院 階段エントランス、ショコラティエ・マサール本店 中庭 (2019~2020)
Snow Pallet 13 / 札幌パークホテル 中庭 (2020~2021)

Snow Pallet13
■会期:2020年12月1日~2021年3月4日
■会場:札幌パークホテル中庭
株式会社グランビスタ ホテル&リゾートが経営する、札幌パークホテルと、美術家・澁⾕俊彦は、2020 年12 ⽉1 ⽇から 2021 年3⽉4日の同中庭の雪解けまで、冬のランドアート「Snow Pallet 13」展を、札幌パークホテル中庭にて開催した。

札幌パークホテルには、中島公園の美しい⾵景を⽣かした約 1,700 平⽅メートルの庭園がある。北海道⼤学で花卉・造園学を担当し、ユリの研究で知られる農学博⼠ 明道博教授の設計である。藻岩⼭から中島公園への連なりを借景として巧みに取り⼊れた庭園は札幌市内の都市型ホテルの中では最⼤規模である。

今回、1700平方メートルのこの中庭に過去最大個数となる70基のオブジェを設置。円板型、2層円板型、ドーナツ型、三角形、Z型などを混在させたレイアウトである。札幌のこの冬の特徴は降雪後、晴れの日が続くことである。(1月の快晴日は18日/31日と多く、そのため低い角度からの太陽光によってオブジェの影(幾何学図形)が雪面に表れ、さながら影絵のようである。

朝日が東から差し込み、建物の影が中庭の約半分を被い、光と影の2つの世界を同時に見ることが出来る。時間と共に南へ移動した太陽光により、今度は公園の樹木の影が映りこむ。1日の時間軸だけで幾つもの景色に変化する。もちろん反射光の色の鮮やかさも変化に富み、曇天時、降雪時には全ての反射光が一斉に輝きを放つ。

12月から1月末までは、想定外の大雪に見舞われることなく、順調な積雪により徐々に変化するスノーパレットの景色をご覧頂くことが出来た。ここはホテルの中庭故、上層階から窓越しに見下ろすことが出来るため、普段では見ることのできない俯瞰の景色を眺めることが出来る。

気象の記録 12月 : 降雪量50㎝、昨年54㎝、平年値132㎝ 1月 : 降雪量137cm、昨年85㎝、平年値173㎝ 2月 : 降雪量 75cm、昨年195㎝、平年値147㎝ 3月 : 降雪量44㎝、昨年49㎝、平年値98㎝(※3月10日までの記録)

しかし、一転して2月は例年最も寒い月のはずが、最高気温がプラスの日が18日と降雪の少なさ(例年の半分、昨年比38%)と相まって、中庭の地肌が露出する事態となった。

このまま、2月末での終了を予感したが、2月27日~3月2日にかけてのこの冬初めてのまとまった降雪(一晩で約30㎝)があり、札幌市街地も大雪警報発令される中、スノーパレットの一部のオブジェたちはめでたく(?)全埋没した。

今シーズン最初で最後の大雪により、スノーパレット13はその本来の姿を鑑賞者の脳裏に焼き付け、その直後の暖気により瞬く間に消失した。



