witness (ウィットネス)という名のアーティストを知ったのは2018年9月のこと。福岡出張の夜、地元のカルチャー事情通の方に「今日この展示に行ってきたんです」と見せてもらったフライヤーに描かれた花の絵に釘付けになりその場でInstagramフォロー。個展最終日だったその夜、行けなかった(知らなかった)残念さを埋めるように、飲みながら「イイネ」を押しまくった。witnessという名前は中性的で匿名性を感じたものの、絵の印象から女性だと思い込んでいたが、送ったDMに頂いた返信はとても丁重な男性。2019年にUNKNOWN ASIAで大阪に来た本人と初めて顔合わせの時、とても雰囲気のあるクールガイでさらに良い意味で裏切られた。
2021年9月10日(金)から始まる大阪初個展に向けてたくさん話してくれました。witnessのスペシャルインタビューをお届けします。
(取材・写真・文: 笹貫淳子)
witness
福岡在住のアーティスト。草花をモチーフにしたものや「ズレ」た風景、日常生活から着想を得た作品のほか、自身の作品をプリントしたファブリックといった横断的なメディアで作品を発表。
サッポロビールのリブランディングビジュアル(2020)、MONTBLANC、スターフライヤーなどのビジュアル制作やコラボレーションを行うほかジャケットアートワーク、グラフィックデザイン、テキスタイルデザイン、国内外での作品展示など活動の幅を広げている。
展示という形式で作品を初めて発表したのは、2007年THE NORTH FACEストア福岡店での二人展「BROWN 」。
ざっと遡ると15年以上のキャリアがあるアーティストだ。
「昔から絵を描くのが好きで、独学でずっと絵を描き続けています。」
そう話すwitnessが2010年頃からライフワークで取り組んできたのが、地元福岡のクラブ Keith Flackとの仕事だ。
「福岡で僕が一番お世話になっているクラブKeith Flackでライブペインティングをよくやっていたんです。ここは、高校生の時からずっと通っていた大切な場所。いつものようにライブペイントをした時にオーナーから『うちのマンスリースケジュールのアートワークを描いて欲しい』と言っていただき、11年間毎月描いていました。イベントやライブスケジュールを毎月発行している冊子です。大好きな場所で僕の絵を使ってもらえるのがとても嬉しかった。僕にとっては『ライフワーク』と呼べる仕事です。コロナがなければ今も続いていたのに。」と残念そうに語る。そのKeith Flakはコロナ禍で他のライブハウス同様に、存続の危機に見舞われた。サバイブするために、クラウドファンディングで支援を募ったところ、目標額の3倍近い857万円のサポートを達成。誰もが存続を強く願う福岡を代表するクラブであることが見受けられる。そこで関わった11年、130冊を超えるマンスリースケジュールは今でも彼の宝であり財産だ。 多感な10代の頃から通っていて、witnessに音楽やカルチャーに大きな影響を与えた場所と関わることで、色々な出会いや扉が開いた。
自分の制作物としっかり向き合うことで、クラブでのライブペイントから家で制作した作品を発表するスタイルに変化させたのが2015年頃。音楽のアルバムジャケットのデザインや、テキスタイル図案、ファッションブランドのコラボレーションなど、自分でカテゴライズせずに、またカテゴリーを限定しない人たちと関わりながらアップデートしている。
だから静物画であっても「動」と「静」が同居する音楽性、グラフィックとしてさまざまな媒体に落とし込めるデザイン性など、様々なレイヤーを持っていることが分かる。
こちらの想像力をかき立てる “witness”というアーティスト名の由来について尋ねた。 「最初は口にした時の発音やフィーリングで名付けたんです。あとになって意味を調べたら『目撃者』と知って驚きました。僕は、絵を描いている時や完成した作品を見た時に、新しい自分をそこに見ることがあります。自分で自分を目撃する、というイメージです。僕の絵を観賞される方も、そうであって欲しいと思います。」
witnessの特徴的な作品シリーズにマスキングテープを用いているものがある。彼のアイコニックな表現で欠かせない媒体だが、そのきっかけは偶然の産物だった。
「画材屋に行った時にたまたま買ったんです、念の為というくらいのレベルで。ライブペイント中に使ってみたら、絵の具は乗るし貼り直しが効く。これ面白いなと思って、そこから使うようになりました。」
たまたま実験的に使った材料がその後の制作・表現・コンセプトに大きな広がりと気づきを彼に持たせることになった。「視覚のズレ」から生まれる遠近感など絵そのものに対する視覚的変化も面白い。そして大胆な直線で1枚の絵に境界線を生みながら、実はそんな境界線は「飛び越えればいい」という逆説的なメッセージも込められている。
「1枚の絵にわざと線を引いてズラしているけれど、それは限界や境界線を意味しているのではなく視点をずらすことで、どちらの世界にも線を乗り越えて行き来ができるようになればいい。僕は作品を人間に見立ててもいるのですが、歪みや間違いがあるし真っ直ぐなだけが美しいということはなく、花のフレッシュな時には瑞々しさを感じられますし、枯れていく様子も美しい。そんなことを感じてもらえたらと思います。でも作品への意味づけや感じ方は鑑賞者が自由にしてもらいたいです。」
2020年、2021年と2年連続でサッポロビールの企業理念(CI)クリエイティブを手掛けた witness。本当に素晴らしいし、サッポロビールがインディペンデントアーティストを抜擢したことにも希望を感じる。
「この仕事では、『マスキングテープを使った作品でお願いします』という明確なリクエストがありました。サッポロビールさんが僕の作品をご覧になって、『錯綜する線にいろいろな可能性、エネルギー、多様性を感じる』と言ってくださいました。それは僕のコンセプトと同じだったので、その想いを共有しながら制作できてとても嬉しかったです。」 その他にMONTBLANCやNIKEとのコラボレーションも経験している。
出身地福岡の面白さを尋ねると、「多くの尊敬する作家や音楽家がいて、今も才能を生み出し続けているところです。福岡は韓国にとても近く、友人もいるためよく遊びに行くのですが昨年の釜山での展示中にコロナで渡航できなくなってしまったので、この状況が収まってまた韓国の皆に会う時のために、韓国語講座で少しずつ勉強しています。」とのこと。
好きな音楽は?
「以前はパンクが好きでバンドを組んだりしていました。今は色々なものを聴きますが最近は韓国のアーティスト(K-POP、歌謡曲、ヒップホップなど新旧問わず)をよく聴いていてDJする時にかけたりしています。」
好きな画家は?
「挙げるときりがないのですがマティス、ゴッホ、ゴーギャン、ホックニー、ベーコンが好きです。デンマークの美術館に行った時にマティスの絵が多く展示してあり、近づいたり少し離れたベンチに座って長い時間観ることができたのはとても贅沢でした。」
好きな本や映画は?
「これまで読んで面白いと思ったものは島田荘司、町田康、村上春樹の短編集、深夜特急などの旅もの、伊坂幸太郎などです。最近はゴッホの手紙という本を読み進めています。
映画は1本に絞るのが難しいけど、祖父が好きで一緒によく観た『キャノンボール(1981)』です。」
ひょうひょうとした雰囲気があるからてっきり猫タイプかと思いきや、犬が大好きだそうだ。 「犬や猫って、人間のことちゃんと分かってますよね」、激しく同意します。
どうぞ皆さん、witnessの絵と出会ってください。
100cm近いカンバスの大作もあります。大阪初個展、21点の作品が展示されます。
(オンラインショップで展示作品の一部を先行ご案内中です。)
witness 個展 window
■会期:2021年9月10日(金) ~ 9月20日(祝・月)
■時間:12:00 – 19:00
■会場:chignitta space (チグニッタ・スペース)
■住所:大阪市西区京町堀 1-13-21高木ビル 1 階奥
■内容:絵画作品の展示販売、グッズ販売
■入場無料 / 定休 月曜日(祝日の20日は営業)
■お問合せ info@chignitta.com
会期中のプログラム:
作家在廊▶︎ 9月10日(金)〜12日(日)
ギャラリートーク▶︎ 9月11日(土)午後3時頃から
ウィークエンド・コラボレーション▶︎ 小林寿枝氏による華道展示のコラボレーション
インタビュー参考資料:
●サッポロビールのCM動画。witnessも出演しています。
●witness選曲の Spotify playlist.ライトなフィーリングで集めてくれました。Enjoy!
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