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上村眞夫インタビュー



2月4日からchignitta spaceでスタートした書画展「客人」。上村さんを囲んでのギャラリートークの模様をテキストにまとめました。書家であり、バー「MALOWD」の店主でもある上村さんの人柄がよくわかる、心温まるインタビューです。動画とともにお楽しみください。


 

上村眞夫

幼少期より書道の師範であった祖母の影響を受け、墨に親しむ環境に育つ。 高校生の頃に一層書くことの楽しみを覚え、その後は独学にて書を描き続ける。 コロナ禍を機に、いちから書を学びなおそうと思い立ち、 かねてより私淑していた書家 小書齋氏に師事。
2021年 江戸末期より続く伊勢国亀山の老舗「瑞宝軒」の新商品「龍乃髭」のロゴを揮毫。 普段は、書と共に自店である「Bar MALOWD」にて、お酒に合う音楽と、音楽に合うお酒を日々探求中。 Bar MALOWD

 


トークイベントの様子

本日は上村眞夫書画展「客人」にお越し頂き、ありがとうございます。

上村さん初個展のオープニングですから、普段は堀江のバー「客人」のマスターでおられる上村さんに、今日はここで「出張バー」をやっていただいて、お酒も作ってもらいながら、皆さんに楽しく飲んでもらって、気持ちも大きくなってもらって、作品をお買い上げいただこうと思っていましたが(まん坊で)それもできなくなって。あと、上村さんには夜に「客人」の営業中に、お客様にすっとチラシを添えてもらって「実は展覧会をしていまして」と、宣伝していただこうと思ってたのですが、それも叶わず。笑。数々の諸条件を乗り越えながら今日に至っているわけです。それでも今日、こんなにたくさんの方々らにお越しいただきまして、本当にありがとうございます。

さて、何から話そうかと思いながら、上村さんと明るい場所で会うこともないなあと。笑。僕らも、普段は「客人」でしか会わないし、今回も酔った勢いで、バーのカウンター越しに展覧会のお願いをしたわけで、今日お越しの皆様の方が、僕らよりお付き合いの長い方もおられますから、きっと上村さんのことについてはお詳しいと思いますが、まずは上村さんはどこで生まれ、どのような経緯でバー「客人」の主人になられたのか。まずはその辺りからお話ししただければと。

上村:元々は東大阪の小阪というところで生まれて、今でも住んでおりまして。そこに40数年いるのですが。元々、靴屋の営業をしておりました。会社員をやりながら、今の「客人」のある場所の横の横でバーをはじめまして。そこは「バルベス」という伝説のお店でして、そこをやっておられた星さんという方がうちのお得意先でもあり「バルベス」が移転になるということで「じゃあこの後は僕がやります」と、計画もなく借りて、何の修行もせずバーをはじめたというのが最初です。ありがたいことに17年目を迎えまして、これも縁だなと、ただただそれに従ってきた人生だったと思っています。

「バルベス」ねー、あったあった。あの狭い店。みんなべろべろになっててね。grafの連中も毎晩来ていて。「バルベス」が堀江のターミナルでもありましたね。

上村:内装、服部さんですもんね。エゴラッピンのよっちゃんが一人で来てたりね。そこでやれたのも一つ大きかったですね。僕が結婚できたのもここがきっかけでしたし、場所に呼ばれたのかもしれませんね。靴の営業をしながら、いつか自分で店ができたら良いかなと思っていたのですが、多分サラリーマンしながら店をやっていたら潰れていたと思いますね。ただ単に酒場が好きというその理由だけではじめたんです。



バー「客人」

「客人」は、僕も笹貫さんも何度も通い深酒もしましたが、本当にお酒が美味しいんだよね。

笹貫:お店に入ったら不思議な高揚感があって、静かでお客さんとの距離感もいいし、初めて行った時、いちいち感動して写真撮りまくったことを覚えています。

バーの修行はどこでされたのですか?

上村:修行はしてないです。ありがたいことに諸先輩方が、現役で頑張っておられるので、そこに飲みに行って盗むことしかしてないです。

あと、上村さんカウンターの中でもそうですがメガネが印象的で。太くて重いやつ。ご実家がメガネ屋さんなんですってね。

上村:はい。貴金属とメガネをやっておりまして。父親がたまたま司馬遼太郎先生とご縁があって、先生の眼鏡を作らせていただいてました。僕の小さい頃、いつも白髪のおじいちゃんが店に来るなあと思っていたら司馬先生だっという。司馬先生用に仕入れたメガネがまだうちにあります。



書画展「客人」展示風景

さて、上村さんと書という話になるのですが、最初、僕はお店の中にあるメニューや但書がすばらしくて、いつも気にはしていたのですが。書のキャリアと言いますか、上村さんと書はどうしてつながったのですか?

上村:元々、祖母が書の師範をしておりまして。とはいえ祖母は信州におりまして、お正月に帰ると書き初めを一緒にする程度だったのですが、今から思うとそのことから綺麗な字というものが好きだったんですね。その後、高校時代の恩師の書く字がとてもきれいだったものでそれを真似て綺麗な字を書こうとしていました。書に対するきっかけはそこだったのかもしれません。今のような書を書くようになったのは、コロナになって店も閉めているし、何もすることがなかったので、改めて書道の先生に教えを乞うたんです。その先生にきちんと書けるようにしていただいた感がありますね。

書道教室に通っていたんですか?

上村:通信講座です。半紙で書かれたお題が郵便で届くんです。僕が書いたものを送り返して、赤ペンで書かれたものが返ってくるという。古典的なスタイルですね。帰ってきた添削がとてもユニークで、あまり直されないんですよ。でも、お手本通りに書くと「そうじゃない」と仰る。面白い先生で、自分の字が出てくるまで書いてくださいという、そんな教え方で。赤字でエッセンスの部分がちょこちょこっと書かれて戻ってくるんですが、それがすごく府に落ちるんです。

幼い頃からの素養があるとは言え、上村さんが、本格的に書を学び、書いているうちに「自分の書はこれだな」と掴めた瞬間というのがあったのですか?

上村:作品を書いて送るのに、意外とすぐ書けるものもあれば、全然書けない難産みたいなお題もあるんです。難産があればあるほど、重ねた分だけ自分のものになってるんじゃないかなと思うところはありますね。ちょっと崩した字を描こうというのではなく、難産があってこそ書ける字があります、例えば「知足」という字などは、昔は絶対書けなかったとおもいます。書けば書くほど面白くなってきますね。



「知足」

上村:先日、とあるお菓子屋さんの新商品のロゴを書かせていただくことがあって。「龍の髭」という、結構自分の好きな字ばかりだったんですけど、全く書けなかったんですよ。それでもいっぱい書けば書くほど繋がっていく感覚がありましたね。

いっぱい書くというのは何枚くらいですか?

上村:「龍の髭」のロゴの時は、5、600枚書いたと思います。(えーっ!)書けば書くほどわからなくなってくるんですよ。気づけば最初に書いた何枚かがよかったする。もう途中から、お酒飲みながら書いてるんですけどね。笑

笹貫:私も、上村さんのインスタをフォローしていて、とある時期から書が投稿されはじめて、毎日それを見ていて「素敵だな」と思っていたんですが、こうして実際の作品を見ていると、一つ一つの言葉の面白さもありながら、すごく言葉があったかい感じがするんですよね。 普段使っている何気ない言葉も、見た時にあたらしい言葉として入ってくる感じがします。あと書についてるキャプションがやさしくて、自然に伝わってくる。素敵だなと思います。



上村さんが書いた「龍の髭」ロゴデザイン

小さい字がいいですね。「書画展」っていうとダイナミックなものが多いでしょ?でも上村さんの書は、落語の師匠の枕のような、小さな声で語りかけるような良さがあるんですよね。

上村:いっぱい書いて今のように落ち着いたというのが結論なんですが、やはり僕の先生の書く書の余白感がすごいんですよ。無駄が一つもないんです。あと、今見てて思うんですが、落款が空気感を作ってくれたなあと思っています。ここにある「木枯し」という作品なども、文字がそこに行きたがるんでしょうね。



木枯し

落款でいうと、雅号を先生につけていただいたとのこと。その雅号について教えていただけますか?

上村:雅号については詳しくなかったんですが、せっかくなので先生に名付けていただいたんです。「白冰」と書いて「はくひょう」というのが僕の雅号になったのですが、先生曰く「冬になれば凍って、夏になれば水になる」という、自然の生業を書に反映してほしいという思いでつけていただいて、背筋が伸びる思いです。



白冰の落款

上村さんの書には音楽の素養があって「喝采」「冬のリビエラ」「潮騒」などもそうですが、いちばん心惹かれる音楽は?

上村:ちあきなおみさんですね。一番聴いているのは。松本隆さんの詞もすばらしいですね。

今回、展覧会の選曲を上村さんにしてもらいまして、流れていると、ここは「客人」かと思うぐらいで。

上村:演歌も流れます。笑

昨日、「冬のリビエラ」が流れるのを聴いててね。「皮のコートのボタンひとつ、とれかけて、様にならない」って歌詞にグッときて。たまらないですよね。こういう歌がいまもうないなあと、改めて思ったんですけどね。

上村:プロの作詞家の方がいた時代の音楽ですよね。伝わり方が全然違いますよね。




「客人」では、以前に来られたお客さんの好きな曲がすっと流れるという、そういう計らいもすばらしいと思います。やっぱり音楽を通じての書であり、お店であるなと改めて思うわけです。 そこにやられた一人が今日、DJとして参加してくれているのですが、オガワジュンゾウさん。ジュンゾウさんは、毎晩客人にいるんでしょ?笑。ジュンゾウさん、上村さんと「客人」の魅力について話してほしいなと思うのですが。

オガワ:僕は、ハウスとかロック系のDJばかりやっていたのですが、客人に通い詰めて、上ちゃんにかなり影響を受けました。一番は演歌ですね。まったく聴かなかったジャンルだったんですが、上村さんに「なんでこんな演歌を聴くねん?」と聞いたら「親父がいつも車でかけてて、それで僕も好きになった」って聞いて。上ちゃんの店でかける演歌ってなかなかオシャレやなって思えて。勉強させられたというか。 今日もDJしてると、谷口さんに「日曜日の午後にAMでかかるような選曲やな」て言われたんですけど。こうやって上ちゃんの書をみながらレコードかけてると、やはり言葉が全て。エモーショナルというか、音楽からきてる書っていうのが、一目でわかるというか、上ちゃんとおつきあいしているからこそ、こういう意味かとわかる。しみじみ観覧させていただいています。

miharu ちゃんも今日DJに来ていただいているのですが、彼女も若手シティポップのDJのなかでは「客人」によく通っておられるおひとり。miharuちゃん、上村さんについてひとこと、お願いします。

miharu:「客人」はかっこいい空間で、いままで自分の好きな音楽をさらに広げていただいたと言うか、音楽を信じていてよかったなと思わせていただいてます。お店で、私のかける曲に頷いてくれますし、深いところで共感してくれる人が近くにいて、いろんな交友関係が広がって、学ぶことがたくさんあります。「客人」は私が成長できる場所です。

音楽っていいね!笑。

上村:ちょっとハイボール一杯飲みたいですね。笑



展覧会を盛り上げてくれたDJ オガワジュンゾウさん(左)miharuさん(右)と上村さん(中央)


「利他」

笹貫:今回、この展覧会では、スペースに収まりきらない素敵な作品がありまして、机上のクリアファイルに入れているんです。私は「晩秋」が好きです。あと「知足」「利他」。風の時代にぴったりの言葉だと思います。

上村:僕も「利他」は気に入っています。一番最初に書いた字ですね。

言葉はどういったところから選ばれているのですか?

上村:何書こうかな、と思ったら隣に本があったりして、目に入った言葉を書く感じです。調べて書くとドヤ感が出そうで。

「こうえんいきたい」は?

上村:これは、実は古谷さん(お馴染み、TANK酒場マスター)のSNSで、娘さんがお父さんに書いたメッセージを見て、本当に素晴らしかったので書きました。子どもが想いを込めた字って僕らには絶対書けないですよね。子どもに「こうえんいきたい」って書かれたら連れて行かなしゃあないでしょってなるでしょ。その想いっていうのが少しでも出ればいいなと。


そのとなりの「もくせいのにおい」っていうのもね。塾の帰りの匂いですよね。

上村:スッと風に乗って薫ってくる金木犀のね。匂いっていいですよね。



「もくせいのにおい」「こうえんいきたい」

そういう優しい言葉の数々が並んでいます。ファイルの作品も半紙を裏打ちして額装してお届けします。あと、お好きな言葉をクエストして書いてもらうこともできます。先日は「ジェィムソンバー」の内田さんが来られて、リクエストをいただきました。「ウヰスキー」です。表札代わりに飾っていただけるそうです。内田さん、一言お願いします。

内田:上村くんも谷口さんも昔から知ってるんですけど、去年コロナで何一ついいことなかった中で、二人がくっついてこのようなイベントができるというのもコロナ様様かなって思います笑。

ありがとうごさいます。ホントお酒飲みたくなってきましたね。笑。この展覧会は23日までですが、コロナがもしあけたら、ここでも出張バーをしていただければと思っています。本日はありがとうございました。(拍手)



「ジェイムソンバー」店主、内田さんのリクエストで書かれた「ウヰスキー」


期間中、上村さんはギャラリーでこうして書いています。

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