7月8日(土)に行われた、進士三紗個展「立ち現れる輪郭」ギャラリートーク。作家を囲んで作品について話を伺いました。
聞き手、笹貫淳子(本展キュレーター)、谷口純弘
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今日はよろしくお願いします。進士さん自己紹介をお願いします。
進士三沙です。京都生まれ京都育ちで京都を拠点に画家として、またフリーランスの写真家として活動しています。今日はよろしくお願いします。
この展覧会、昨年の「メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア」で笹貫賞を受賞して、1年かけてこの展覧会が実現したわけですが、笹貫さんに進士さんと出会った時の印象から、今回の展覧会に至るまでのストーリーをお話しいただけますか?
笹貫:ちょうど1年前にメタセコイアが行われたわけですが、ちょうどこの会場で進士さんの作品が展示されました。私は毎年たくさんのアーティストと出会っているのですが、なんてダイナミックでかっこいい作品を描く作家さんなんだろうと一目惚れしました。自分の世界観をしっかり貫かれていて、しかも若いから柔軟性もあり、お会いしたらご本人も素敵で笑、ますます好きになり、笹貫賞を差し上げました。そこから進士さんと打ち合わせをして、彼女の世界観をしっかりと伝えられるような展覧会をしたいなあと考え、相談しながら進めてきました。
そもそも進士さんは「メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア」をどのように知り、応募しようと思ったのですか?
進士:メタセコイアは「登竜門」という公募サイトででした。当時。大学卒業して2年目で焦りがあった時期で、メタセコイアは誰か一人が選ばれるコンテストではなくていろんな人に機会がもらえるコンペだったので応募してみました。展示メンバーに選ばれて、たくさんのつながりをいただけました。
そんな進士さん、今年に入って「メタセコイア」で出会ったアーティスト近藤洋平さんが運営する、滋賀の「まるとしかく」(滋賀県湖南市の旧東海道「石部宿」にある カフェ・ギャラリー、イベントスペース、一日一組の宿)でのグループ展に参加されたり、神戸のバイソンギャラリーでの作品展を観せていただいたのですが、場の力に負けない作品世界に惹きつけられました、チグニッタではどのような展覧会をしていただけるのか楽しみにしていました。笹貫さん、今回の展覧会のコンセプトなど、お話いただけますか?
笹貫:空間全体で進士さんの世界をしっかり伝えたいなと思い、これも「メタセコイア」がご縁の松尾謙さん(音響クリエイター)に空間音を構築していただきました。会場に入っていただくといつもより外の音がよく聞こえるなと思った方もおられると思うのですが、これは会場の音響効果なんです。メインの作品の前に立つと水の音が際立つ演出もあります。皆さんもトークの後、ぜひ体験してください。
進士さんの作品について話したいただこうと思うのですが。「石」をテーマにされているのですね。
進士:大学2年生から「石」を描きはじめはや6年になるのですが、最初、石の形の成り立ちというものに気づいたときに面白いなあと思って。小中学生の理科で習うのですが、石の成り立ちというのは、山にある大きな岩が崩れ落ちて、川の流れに乗ってどんどん削れて丸くなって石になり、砂になり、海に流れ込んだらまた圧力で固まって岩盤になると。それがまた山になってという。
私が今立っている場所は何億年という時間の中でずっと循環しているのであって、そういう地球の営みのなかで私が手にしている石もその歴史を伝えてくれているのだと思うと、すごく愛おしく思えて。そんなでっかい時間の中に私は一瞬の生を受けてたまたまこの石を手にしてるのだとも思うとすごく尊いなあと。
そういう畏敬の念を絵にしたいなと思っていて。石というのはどっしりとしたイメージがあるのですが、もっと大きな目で見ると動いていて、その動いている状態の石を描きたいんだと思って、動いている石をどう描けばいいのか、石の形をどう描けばいいのか、絵画の空間の中でどう展開できればいいのかを常に考えています。
笹貫:石はそれ自体動かない、という固定概念だけど、水や風など、あらゆる他の要因によって動かされているわけですよね。そういった大きな流れの中の一瞬を表現しているんですよね。
進士:絵とか写真とかは止まっているものを描くのが普通というか、見ているものの後ろ側には石の歩みや長い歴史や時間が含まれているので、それをどう表現するのか常に頭を悩ませているというか。
笹貫:今回の個展タイトル「立ち現れる輪郭」やがて見えてくる、際立ってくるという意味合いを感じたのですが、進士さんとしてはどういう意図がありますか?
進士:シンプルに石を描くのではなくて、その周囲を描くことで、石が見えてくるのではないかと思い、モノタイプという技法で石の周囲を描いて写し取り、石の輪郭を描き出そうとしています。転写をするので、描いたものが全て写るわけではなくて、材質によって掠れたりしてコントロールできないところもあって、それでも刷りを重ねていくうちに輪郭が作られていくというプロセスに普遍的なものを感じています。
笹貫:それは人間にもありますよね。進士さんのステートメントにもあるように「今日は何を食べよう」「何をしよう」という言葉がありますけど、日々変わらないと思っているようなことでも周りの影響によって変わっていくというか。
進士:そういう意味では石も人も変わらないという感じもします。
笹貫:進士さんにとって石はずっとパートナーになるんですか。笑。
進士:パートナーというか何かのメタファーになる存在ですね。
笹貫:私が進士さんの絵を観て、動かないと思っているものが実は動いているという、相反するものが一つのキャンバスに描かれていると気付かされたときに新しい発見というか、ある種のショックを受けたんです。
進士さんの作品タイトルには”Flow”とか”Crossing””Surroundings"というタイトルが付いていますが、それも作品の世界を端的に表現していますよね。
進士:その絵を描いたときに何に気を付けているのかをタイトルにしているところがあります。"Crossing”には「交差」という意味がありますが、石がぶつかって割れたりする、一瞬の出会いや、石と石との別れなど、そういった瞬間を表現したくてつけました。出会いと別れが交差するというか。
笹貫:実際に目の前に石を置いて描かれるのですか?
進士:石の形を描くために集めてきた石を机に並べて描くのですが。水の流れについては鴨川に行って、水の流れのリズムや法則を何度もスケッチして持ち帰り、それを元に描いています。
鴨川というのが京都のアーティストならではですね。水の流れや石の具合もいい感じなんでしょうね。淀川だとこうはいかない感じがします。
進士:そうですね。鴨川デルタってちょうどいい観察スポットです。
笹貫:高知の仁淀川が家の近くなので、川を見ると進士さんのことを考えてました。
進士さんの絵といえば独特のカラー、色のチョイスの感覚がいいですね
進士:石の色は、実際に置いている石からインスピレーションを受けて描いています。いろいろ石を見続けていたら、家の石コレクションたちがめちゃカラフルなんですよ。ある時それに気づいてびっくりして。
笹貫:石好きの人があつまる石イベントとかはどうですか?
進士:そういうのには興味がなくって。ただその辺に落ちている石ころが好きなだけで宝石が好きなわけではないんです。
今話している間にも環境音がとりまいていて、この音にはいろんな仕掛けがあるんですよね。
笹貫:全体的には鴨川で採取した水の音ですが、他に、人の話し声とかクルマの音もあります。今座っている机にもスピーカーが取り付けられていて振動を感じたりします。あと、公園側からも子どもの歓声が聞こえるのですが、あれはパリの公園の環境音なんです。なぜパリかというと、実は進士さんはこの展覧会の後、9月にフランスへの留学が決まっていることから、サウンドクリエイターの松尾さんと相談して音を選びました。
石をメタファーに「私たちを取り巻くものがいろんな環境によって変化し、一つとして留まるものではない」というコンセプトのもと、進士さんの現在、京都であったり、未来のパリのノイズなども入っています。京町堀の環境音も、実はマイクを外に仕込んで音の彫刻を作り上げています。
すばらしいですね。相当に作り込まれた展覧会であることがよく分かりますね。
笹貫:フランスではセーヌ川で石を描きますか?
進士:フランスでは石を描くかどうかわからないですけど、同じテーマ、自分と自然との関わりについて考えて描くと思うのですが。帰ったらまた石を描くかもしれませんけど。
笹貫:ちなみに今出ているSAVVYにもインタビューが掲載されています。またオンラインメディア「MARZEL」でも紹介されています。また産経新聞にも今週金曜日に展覧会が紹介されます。11日はこの会場で「メタセコイア」の作品説明会やポートフォリオレビューも行われます。京町堀の審査員のみなさんもきてくれます。今年もたくさんのアーティストに集まって欲しいですね。
MARZEL
メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア 2023 エントリー受付中!(7月24日締切)
開催中!進士三紗個展「立ち現れる輪郭」
期間:2023年7月8日(土)〜17日(月・祝)会期中無休
会場:チグニッタ(大阪市西区京町堀1-13-21 高木ビル1階)
オンラインで作品販売スタート(7月11日13時より)
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