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北澤平祐インタビュー



現在、チグニッタで個展開催中のイラストレーター、北澤平祐さん、5月28日に行われたギャラリートークをテキストにしました。ロス在住時代の幼少期から、プロを目指したきっかけ、digmeoutとの出会い、現在の仕事スタイルなど、プロのイラストレーターを目指す方々に役に立つ話がいっぱいです。動画と共にお楽しみください。



 

北澤平祐
イラストレーター

アメリカに16年間在住後、帰国、イラストレーターとしての活動を開始。多数の書籍装画や、フランセ、キャラメルゴーストハウス、アフタヌーンティーなどの商品やパッケージ、サンリオとのグリーティングカードシリーズまで幅広い分野でイラストを提供。近著に「The Current/ 北澤平祐作品集」(玄光社)、「ゆらゆら」(講談社)、「ぼくとねこのすれちがい日記」(ホーム社/集英社)。




 


北澤平祐さん、よろしくお願いします。


北澤:大阪での展示はdigmeout CAFEからDMOARTS、そしてチグニッタと、ずっと谷口さんと一緒にやらせていただいてて。ここは広くてとても気持ちのいい場所ですね。


昨日から始まった「おしごと展」ですが。オープン前からお待ちいただいてる方がいて、 しかも横浜埼玉東京、各地からファンが駆けつける人気っぷりです。


北澤:うれしいですありがとうございます。谷口さんとの馴れ初めですが、20年前ぐらいになります。当時住んでたロス(ロスアンジェルス)の本屋で谷口さんが作っていた本をみつけまして。若いアーティストを紹介するすごく面白い本で、最後にメールアドレスが書いてあったのでメールしたら「日本においでよ」と返事をもらったので、早速遊びに行ったらすごく良くしてもらって。

当時、私がアメリカで見た本は「digmeout」1号だったのですが、3年後に「digmoeut」5号で特集してもらいました。当時はまだデジタル、フォトショップだけで絵を描かせてもらっていて、今とは違うイメージなんですけど、紙に掲載してもらったことも初めてだったので、このご縁で仕事に繋がったりとか、大阪で個展をやらせてもらったり、それが最初で、20年経ってもこうやって呼んでいただけるってすごく嬉しいです。

長いよね20年。そもそも北澤平祐さんはなぜロスにいて どうして絵を描き始めたのか教えてください。

北澤:もともと親の仕事の関係で10歳でロスに引っ越しまして。両親があっちを気に入りすぎて永住してしまったんですね。弟と妹も永住しています。

私がアメリカに行った「10歳」というのが微妙な年齢でして、弟は6歳、妹は7歳で、現地ですぐに「普通に英語しゃべってる」って感じだったのですが、僕は3年ぐらいかかってしまって。「コミュニケーション難しいな」と思っていたのがどこかであって、絵だったら言葉がいらないからと、今思うとそれがあったのかもしれません。

私が絵を描き始めたのは高校生ぐらいの時で、カリキュラムに「図画工作」があって、アートの先生がすごく親身になってくださる方でした。課題で描いた作品を「コンテストに出してみる?」とか色々世話を焼いてくださって、それがきっかけですね。

その後、私の行った大学が「カリフォルニア州立大学フラトン校」といって、ディズニースタジオが目と鼻の先なので、アート部門も充実していて、そこのイラストレーションの先生もいい人で、そのまま大学院にも進んで、母校で先生もやって、そんな時に、地元の書店でdigmeoutを発見して、という感じです。

ティムバートンの映画が好きでした。当時、描いていた絵がモノクロだったりダークだったりしたのはその影響かもしれません。いまだに影響をうけているのは音楽かもしれません。絵に影響を受けちゃうと真似になってしまうので。

音楽はGrandaddyが好きでした、DIY的な。宅録モノが好きだったので。宅録文化ってスケーターカルチャーや、LAのアートシーンとも繋がっていたり、そんな仲間といつも一緒でしたね。日本のバンドではくるりが好きで「いつかくるりのジャケットやりたい」って谷口さんに会った時も言ってましたね。



digmeout 05 北澤平祐の特集ページ


当時「digmeout」はアムステルダムのIDEABOOKSという本屋さんを通じて世界に配本して もらってたんですけど、それがきっかけで海外のコネクションも増えて。 ロスの本屋「GIANT ROBOT」もそんなつながりでした。 北澤さんがそこで「digmoeut」と出逢ったことも素敵なことだし、 僕が送ったメールを見てすぐに、飛行機に乗って会いにきてくれたってことが すごいと思ったし、びっくりもした。そんなやつには贔屓もしたくなるじゃないですか。 「僕に会いに来た」って簡単に言うけど、他にも色々予定を作って来たんでしょ?

北澤:なかったです、これだけです。

本当に?笑、すごいな。

北澤:谷口さんにお会いする以前に、一時帰国で日本に帰って、その時原宿の「デザインフェスタギャラリー」で個展をやれば?と、友達が声をかけてくれて、その経験がとても楽しくて。

当時、イラク戦争でアメリカが暗かったし、日本がキラキラしているように見えて、digmeoutもあったし、大学院も修了して、一区切りできる状況だったので日本に帰ろうと。まだグリーンカードも持っていたので軽い気持ちでしたけどね。

帰ってしばらく「デザインフェスタギャラリー」でバイトしながら、今の奥さんと出会い、結婚もして。バイトしながらだとプロのイラストレーターとしてやっていけないだろうと思って、名刺を作って、3回ぐらい出版社に持ち込みをしたんですけど、ボロクソに言われて「2度と持ち込みなんかしないぞ」と思いました。



左)carotn boxのジャケット 右)KENZO Perfumeパッケージ

北澤:その頃、友人のバンド(cartonbox)のジャケットを手伝って、マイスペースとかに画像をアップしていたら、日本ではなくアメリカから仕事のオファーが来たり、それをこなしているうちに、それを見た日本の出版社から挿画の依頼をいただいたりしてました。

バンドのジャケットがフランスのKENZOの香水の仕事に繋がって、6種類ぐらいのパッケージをやったんです。突然メールが来て「社長が来日しているので新宿のホテルで打ち合わせできないか」と。冗談かと思いましたが本当の話でした。笑。

KENZOの仕事は大きかったんですけど、日本の反応はあまりなかったですね。結婚もして、子供が生まれてから本気でやらないといけないと思いました。国内の仕事をこなしていかないとダメだなと思いましたね。

あと、日本の「打ち合わせ文化」っていいなと思いました。お会いして話してるうちに、次につながる話をいただいたり、「ちゃんと食べれてる?大丈夫?」なんて心配もしてもらったり。海外の仕事ってギャラが良くても単発で終わることが多くて、だから日本の温かさみたいなとことで今に繋がっていることが多いですね。

当時のデジタルイラストから、今のような手描きのスタイルに変わって、 仕事が回り出したきっかけについて教えてください。

北澤:フランセがやはり大きかったですね。今から5,6年前です。その前に全く仕事がなくなった時期がありまして。2011年の震災の時期です。それまで普通に仕事もあって暮らせていたのですが、気づけば「あれ、全く仕事がない」ってなって、それが半年ぐらい続いて、「ああ、イラストレーター終わったなー」って思って。その間、英訳の仕事もやりつつ、色んな方にアドバイスを受けました。「しっかりした個展を開いたら」と言われ、代官山にあったGALLERY SPEAK FORを紹介してもらいました。個展をやるにあたり、今までのデジタルとは違うことをやらねば枯れてしまうと思い、画材屋さんに行ってカラーインクを買ってきました。カラーインクってボトルがきれいなんですよね。あと筆とか買って、YOUTUBEで使い方とか調べて個展を開催しました。



大阪音大のポスターシリーズ

北澤:あとは「とにかく人に会え」と。「パーティに行け」と、言われたのでそれを実行して。広告代理店の方が開かれているパーティに誘われておそるおそる行ってみたら、そこで出逢った人たちがすごく優しくて。その中の一人が写真家の方で、のちにフランセのデザインをやるデザイナーの河西達也さん(THAT’S ALL RIGHT)を紹介してくださいました。個展会場でお会いして「何か一緒にできないか」と言ってもらって。河西さんとはフランセの仕事の前に「大阪音大」の100周年記念ポスターを一緒に作りました。全く異なるスタイルの3種類のポスターを制作させてもらい、思えばそれが河西さんの試験だったのではないかと思ったのですが、それから半年後に「北澤さん、一緒にお菓子つくりましょう」って声かけてもらいました。



francaisのロゴとパッケージ

北澤:フランセは60年以上前からあるお菓子メーカーで、リニュアルにあたって河西さんがリブランディングを担当されるのをお手伝いしました。全部で8種類のパッケージを制作したのですが、8種類のシリーズによって画材を変えたりして挑戦しました。これも大阪音大の経験があってこそできた仕事じゃないかなと思います。

河西さんとの出会いや、お仕事が、北澤さんにとって大きな出来事だったんですね。

北澤:河西さんは、アートディレクションもそうですが、仕事の考え方を変えてくれましたね。それまで結構生意気でデザイナーさんとしょっちゅう喧嘩したりとかしてたんですけど、信頼できる方と一緒に物を作っていくといいものができるってことがわかったので。



COCO’S メニュー 2022

北澤:ここに並んでいるのはフランセ以降のお仕事です。Shop inというコスメ専門のお店の年間ビジュアルのお仕事は、「フランセ」のパッケージをご覧になって依頼を受けた第1号の仕事になります。アフタヌーンティーリビングの一連の仕事も大きかったです。デザイナーさんがすごくて、私自身は4枚の線画を描いたのですが、4枚の絵から1シーズン40点ぐらいのアイテムを作られて、それが全部可愛いという。COCO’Sさんというファミレスのお仕事も2018年からやらせていただいていて、これもパーティでの出会いがきっかけです。今まで5シーズンやらていただいて、ラフ、本番含めて1度も修正ないのです。COCO’Sさん、おいしいんです。ハンバーグとか。

今回は北澤さんに「おしごと展」「ベストオブ北澤平祐」で行こうよってお願いしたのですが、 届いた作品の物量と仕事量の凄さに驚いたんです。これ全部アナログでしょ?

北澤:今は7:3くらいでアナログが多いですね。

「おしごと展」で展示されている作品は全て手描きで、ひとつひとつがペンの上に 着彩されています。とても丁寧に作画されておられるのをみてびっくりしました。 ここにスケッチブックもありますが、今の仕事のやり方というのはどんな感じですか?

北澤:仕事を受けると、まず打ち合わせをさせていただきます。コロナ時代でひとつよかったのはリモートなので移動時間がなくて、より長い時間絵を描けるようになったことです。締め切りが1か月後だとしたら2週間を目処にラフを出します。ラフはデジタルで描くのですが、最初から丁寧なラフを描くことでやりとりが一工程減らせるので、最近はもうほぼ最終形に近い物を提出します。



左)線画の一部 右)デザインされた商品

北澤:これはアフターヌーンティのラフですが、クリップスタジオというmacのアプリでほぼ原寸サイズで描いて、ラフのOKが出た時点でトレース台の上に置いて、水彩紙を乗せ、面相筆とカラーイングで線画を描き込み、その後、着彩します。できるだけ下書きのプロセスを減らして、仕事を短縮できるかを考えています。

北澤さんのお仕事って、カラフルで、たくさんの色を使っているように見えて、 全体的なトーンというか、北澤カラーというのものがあると思うのですが。 クライアントの要求にも応えつつ、自分の色に対するこだわりというものはありますか?

北澤:おっしゃる通り、どんなに多くても色数は8色ぐらいがマックスで、カラーインクの面白いところは水の量で色の調整ができるので、赤とピンクは同じ色なんです。ですからパレットの上にはいつも5.6色しかないです。


ピンクが綺麗ですね。

北澤:ありがとうございます。ピンクは好きですね。日本に来てから好きになった色ですね。



「原画バラ売り」コーナー

今回の個展では、壁面の展示だけではなく「お仕事原画バラ売り」っていう趣向もあって....

北澤:お祭りですね。

ほんとすごい仕事量ですね。雑誌の挿絵とか

北澤:雑誌の挿絵、本の装丁、広告でもカットとかいろいろあるのですが、そういうのは額装して一枚絵にするのも大変なので、ずっと押し入れに眠っていました。



Ana logue (ANA)カット

これは、全日空の機内誌ですか?旅のエッセィに添えられるような 中華料理やもんじゃ焼き、東京タワーの絵もあって、 こんな写実的な絵も描けるんだと思いました。 挿画の仕事って、どれくらいの時間で仕上げるのですか?

北澤:1日でラフ書いて半日で線画、その日のうちに着彩ですね。

個展ではあまり見せることがないものですが、お仕事終わりの原画の展示販売ということで とてもSDGS的な試みですが、意外と線画の作品も人気がありますね。 今日お越しの皆さん、北澤さんに聞きたいことがあれば、なんでもお答えしますよ!笑


参加者からの質問:ラフをiPadで描いて送るって聞いたのですが?どんなラフを送ってるのですか?


北澤:線画だけです。色は言葉で説明します。色はイメージを固定化しやすいこともあるので。広告の場合はデザイナーさんが色を選択されることもありますし。自分よりも絵が上手いデザイナーさんも沢山おられますしね。笑

参加者からの質問:本の挿画を数多くされておられますが、事前に内容は読んでおられますか

北澤:はい、全部読んでます、昔は原稿も紙で来ていたのですが、最近はデジタルなのですべてkindleにいれて、ハイライトが入れられる機能があるので、読みながら自分が気になった箇所をひたすらハイライトして、プリントアウトして自分で眺めて、構想を練ります。打ち合わせ前にそれをやっています。「赤毛のアン」もそうですね。



左)「赤毛のアン」挿画 中右)樋口一葉「たけくらべ」「にごりえ」挿画

「赤毛のアン」も、樋口一葉の「にごりえ」「たけくらべ」も名作じゃないですか。 マスターピースの挿画をやる気持ちってどうなんですか?

北澤:すごく緊張しました。昨年末にHBギャラリーでやった個展に来ていただいた担当のデザイナーさんが、作風を気に入っていただき、お仕事につながりました。個展は「みちしるべ」をテーマに、全て二色で表現するシリーズだったので、この仕事も二色で仕上げました。個展の後はトライした新しいタッチの仕事の依頼をいただくことが多いので、すごく大切です。一昨年は「妖怪」をテーマにした個展をやったのですが、妖怪の依頼はまだ一度もないです。。。

今年は北澤さん、どんな予定ですか?

北澤:直近では来週、絵本の締め切りがあって、まだ3ページ分ぐらい終わっていないですが。絵本雑誌の「moe」さんでパイロット版を作らせていただいた「さがしもの絵本」というジャンルのものですが「さがしもの」なので隠さないといけないんです。で、隠そうとするといっぱいものを描かなといけない、大変です。笑。でも今までにないぐらい大きなサイズの見開きに大きな絵を描いていて楽しいものになりそうです。9月発売の予定です。展示は12月にフランセのデザイナー河西さんとの二人展を予定しています。河西さんが仕事以外でやりたいことを僕が具現化する予定です。楽しいですね。まだ何一つ描いてないんでどんな無茶振りが来るかわからないんですけど。笑

将来やりたいことある?

北澤:あと、さっき言ってたくるりのジャケットはいつか描かせていただきたいと、20年経っても思っています。

「北澤平祐のおしごと展」は6月12日まで開催中です。 たくさんのお仕事原画を見ることのできる貴重な展示です。 ぜひチグニッタへ!



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